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2012年 10月 28日
傘立てとビニール傘をめぐる出来事

ー入口の傘立てを利用する時に注意すべきこと
1.店に入る時雨が降っていて、店を出る時雨が止んでいたら、傘を忘れないように注意しなければならない。
2.店に入る時雨が降っていなくて、店の中にいる時に雨が降り出したら、誰かに傘を持っていかれないように注意しなければならない。


喫茶店に入ると、坊主頭の男がちょうどレジに立ったところだった。店員はとりあえず水を運んできたが、注文を受けるのはレジが済んでからということになった。
常連なのか男はチケットを買っている。
そして、外をじっと見ている。雨あしが強いことに困惑しているようだ。しばし、逡巡している。店には、男の他にもう一組客がいるのだが、傘立てには自分の傘を含めて2本しか入っていない。男は傘を持ってこなかったに違いない。

この男、怪しい。取るつもりじゃなかろうか。
案の定、外に出た男はしゃーしゃーと傘を手にして広げようとしたので、駆け寄って睨んだら謝ったのだが、別の傘を広げて去って行ってしまった。

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2時間ほども長居したら、雨あしが強まったようだ。よく見ると、ずいぶんと激しい。ああ、めんどくさい。この喫茶店はお気に入りで、モーニングで2時間ほど粘って本を読むのが週末の楽しみの1つになっている。店のマスターは面白い人のようなのだが、まだあまり会話をしたことはない。で、ちょっとコミュニケーションをとりたい気持ちもあって、あれれ、雨が強くなってしまって困ってしまいました、という気持ちを込めて外を眺めていた。その続きで会話をするでもなかったのだが。

傘立てにビニール傘は2本。1本は細い黒のテープが巻いてあるタイプだ。今、家にビニール傘は3本あるのだが、そのうちの1本はこのタイプだった。今日このタイプを選んだかは記憶が定かでなかったが、置いた場所がこの位置だった気がしたので手にとって開こうとした。その時、さっき店に入ってきたおじさんが迫ってきた。凄い形相だ。どうも自分は傘を間違えたらしい、と思って、とっさに謝って、別の傘を持って行った。

傘を差しながら、自分は傘を持ってきただろうかと自問する。間違いない、差してきた。朝からそれなりに雨は降っていたのだからいくらなんでもこれは間違いない。

そう考えると、あのおじさんの反応はちょっと不自然だ。2本の傘はどちらもビニール傘で、代わり映えがするとも思えないから、それを取り違えたことに対する抗議にしては大げさだ。
そもそも奥のほうに座った彼がその判別をできたのか怪しいものだ。

彼の反応は不当である、と言えるだろう。あの場面ですぐ謝るのは良くなかった。「あら、傘を取り違えてしまいましたか?」とにこやかに語りかけるべきだった。

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店に残された、おじさん、マスター、もう一組の親子連れがどんなことを思っていたのか興味深いのだが、詳細は不明だ。ただ、家に黒いテープが巻いてある傘がなかったことからして、紛らわしい行動と思い込みとミスコミュケーションが引き起こした喜劇ということに落ち着くようだ。
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by taiji_nakao | 2012-10-28 12:50 | エッセイ
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