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2006年 04月 10日
鋸谷式間伐について
鋸谷式間伐(おがやしきかんばつ)                        

 9年間、福井県の森林整備課勤務の鋸谷茂さんが新しい間伐方法を提唱しました。今日本には膨大な面積の間伐が不十分な森林があるのは周知の通りですが、7月に鋸谷さんを訪問して、この間伐方法は現状を打開する一つの方法になりうるのではないかという希望を持ちました。今回はそれを紹介したいと思います。

 目次
1.コンセプト
2.密度管理理論
3.現場でのやり方
4.鋸谷式間伐の可能性






1.コンセプト

従来の間伐では、「スギ(ヒノキ)が生存するための限界ぎりぎりスギを残す」様にしてきました。これに対して鋸谷式間伐では「スギが他の植物に負けないための限界ぎりぎりまでスギを伐る」様にするというのです。
これには二つのメリットがあります。
 
間伐コストの削減
従来の間伐が「スギ(ヒノキ)が生存するための限界ぎりぎりスギを残す」様にするのは、年輪が密な木材を得るためです。こうした木材の価値が高かったことはもちろんですが、戦後に大量に造成された人工林の施業方法のモデルが、年輪が密なことで知られる吉野だったこともあります。
 しかし、「スギが生存するための限界」な密度ぎりぎりに保つためにはまめに間伐することが欠かせません。もし、適切に間伐しなければすぐに脆弱な林になってしまいます。ところが、放置されその脆弱な林が日本中にあるのです。
ほとんどの林業家にとって、材価が低迷し、緻密な材にしてもそれほど高く売れない今、吉野式の施業方法をとることにメリットはありません。
 それより、一度により多く間伐して、間伐と間伐の期間を長くして、回数を減らす方がコストを削減できるのです。
  一度にたくさん伐るので、掛かり木が少ないのも魅力です。


  土壌流出の抑制
 従来の方法では、間伐後でさえ林内に入る光は少なく、下層植生は育ちません。それは、先に挙げたように「スギが生存できるための限界」な密度ぎりぎりまでしか間伐しないからです。
 それを、より多く間伐すれば林内に光が入り、下層植生が育ち、見た目にも美しく、土壌流出も抑えられた林となるのです。

2.密度管理理論

 間伐は、木が育って密になってきて、一定の密度以上(=伐る時の密度)になったら、一定の密度(=残す密度)まで伐り、また木が育って・・の繰り返しです。
この、残す時の密度を「スギが他の植物に負けないための限界ぎりぎりまでスギを伐る」ようにして、「これ以上密になると風雪害に負けてしまう」様な密度になった時に伐るようにするのが鋸谷式間伐の密度管理の考え方です。

「スギが他の植物に負けないための限界ぎりぎりまでスギを伐る」ための密度は、胸高断面積合計30㎡/ha、「これ以上密になると風雪害に負けてしまう」密度が胸高断面積合計50㎡/haとなっています。

胸高断面積 木を胸の高さで切った時の断面積。この値が大きいほどその林は密だということになります。完全に密になると、80㎡/haくらいになるそうです。従来の間伐では、このあたりで管理していたことになります。


 30㎡/haはどこから来ているかというと、「スギが他の植物に負けないための限界ぎりぎりまでスギを伐る」ためには樹幹占有率が50%以上必要で(これは観察から出てきたという話です)、それを満たす胸高断面積合計というそうです。
 
 *樹幹占有率   スギの樹幹がその空間全体に占める割合。スギがびっしり植えられていて、光が林内に入ってこない状態の時はこの値は100%ということになる。


「これ以上密になると風雪害に負けてしまう」密度が胸高断面積合計50㎡/haなのは、1971年に起きた大豪雪の際の被害を調査したデータ(図参考)より、形状比が70より小さければまず災害に負けることがないという結論からきています。形状比70から胸高断面積合計50㎡/haが出てきたのは、別の長年の調査の結果とのことです。

*形状比 木の (高さ)/(胸高直径) この値が大きいほど細い木。

 こうして見ると数値を出す際にアバウトなところが多いので、学術的には弱いかもしれません。しかし、現場では「使える数字」が求められているわけで、科学的な厳密な証明などいらず、わかりやすくて、自分のところでうまくいきさえすればいいのです。  
 どう使いやすいのか?それを次に説明します。これが鋸谷式間伐の一番の見せ所です。



「これ以上密になると風雪害に負けてしまう」密度がB、 「スギが他の植物に負けないための限界ぎりぎりまでスギを伐る」密度がAで、この二つの曲線の間に密度を保つことになります。
胸高直径が24~30cmところで、Aの密度まで伐らないのは「間伐手遅れ林のこの太さの林分では、枝の枯れ上がりが高く、強度の間伐が(山主に)受け入れてもらえにくいため。(中略)胸高断面積合計30㎡の本数まで落としても何の問題もありません。(メールで返事をいただきました)」とのことです。このあたりのエピソードからも徹底した現場主義を感じました。

3.現場でのやり方
 
準備するもの; 4メートルより少し長めの釣竿(バーゲン品の2000円のが良い)
          直径巻尺
          密度管理の本数換算表

本数換算表 これに従えば、樹高がわかれば、残すべき木の胸高直径・半径4メートル内に残す本数が出てきます。もちろん、胸高直径は形状比70の原則から、残す本数は「樹幹占有率50%以上」の原則からきています。
 
形状比の測り方
直径巻尺で直径を測り、樹高は、実際にサンプルを倒す(同じ林内なら、どの木も高さは同じ)か、なれてこれば、竿を利用して目測。

 50㎡の中の木の本数の測り方
 一本の木を中心に竿をぐるりと回し、その中の木を数えればよい。




実際の作業手順
 樹高を測る

竿を使って、その円内に、本数換算表を参考にして、形状比70を満たした胸高直径の木を樹幹占有率50%の本数を残す。残す木にテープを巻く。

全部テープをつけたら、後は伐るのみ!!

 線香林への対応

 今、あまりに間伐がされていないためひょろひょろの線香のような木ばかりの林がたくさんあります。こうした林でいきなり高い密度の間伐をすると、残った木が風雪害に会うとまず耐えられません。そのために考案されたのが、巻枯らし間伐です。

 巻枯らし間伐をすれば、巻枯らしをされた木は、数年は立っているので残した木の支えとなります。具体的には、強風を緩和したり、雪が積もって倒れそうになった時、隣の(巻枯らしした)木に触れて雪が落ちるため折れにくくなったりします。

また、巻枯らしを皮を剥ぐ方法で行えば、技術のない森林ボランティアでもできます。


 巻枯らしの欠点として、いつ倒れるのかわからないというものがありますが、その辺をうかがったところ、
「 10年後ではほとんど倒れません。形状比85以下で巻枯し間伐を行った場合は、10年後の2回目の間伐時に、形状比は70から75程度に回復するので、2回目の間伐の時に伐り倒します。

 しかし、形状比90程度で巻枯しを行った場合、10年後の2回目の間伐時に、形状比はまだ80から85程度にしか改善しませんので、2回目の間伐時には伐り倒さず、自然に倒れるまで支えとして残す方が良いでしょう。
もちろん、2回目の間伐も巻枯し間伐となります。
 ただし、太平洋側のスギで間伐手遅れ林でも小枝が多く生きている品種の場合は、形状比の回復が早い場合があるので、2回目の間伐時の形状比を確認して、残す木の形状比が80以下であれば伐倒間伐をして、同時に巻枯しの残存木も切り倒します。(メールの返事)」とのこと。
 10年後の2回目の間伐までにはほとんど倒れないとのことです。ですから、2回目の間伐の際に突然倒れて・・なんてことは無いようです。
 
4.鋸谷式間伐の可能性

 ある講演会で鋸谷さんは、「たまたま、協力者が得られましたので、うまく取り組むことができました。取り組み始めまして、山が良くなるのは当然でございます。山が良くなるのは当然でございますが、その作業効率ですね。1年間通しました1人の作業班の作業効率でいいますと、毎年20%、少ないときでも15%くらい、3年間で連続して効率が上がってまいりました。効率が上がるということは、当然作業班の賃金として反映してくるわけでございまして、3年間、毎年平均100万円ずつアップしてきたのです。(http://tamarin.cside21.com/ogaya.htmlより抜粋)」と語っていますが、鋸谷式間伐は「どう売るか?」という、これを解決なくして林業がうまくいかないと考えられる視点が抜けています。速水林業にしろ、天竜市にしろ、現在何とかやっているところは、営業がうまいからこそ残っているといって過言でないのにです。 しかも、「林業に対する考え方ですけれども、一般的にですね、やはり日本の林業というのは、本来儲かる産業ではなかった、ということを今一度認識していただきたい。(同上)」と言い切っています。

*注 現代は広い間取りの部屋を持つ家が増えているから、大きな木材が必要であり、この需要に応えるべく、大きな梁材としてつかえ、もちろん小さく製材しても使える、胸高直径60センチ以上の木を育てることを目指すと語っていました。また自らの家を、自分の山の木材から建て、木材住宅の宣伝にも使っていました。ですから、全くマーケティングをしていないわけではありません。

どうやって、作業班の賃金を上げたのか?それは、「補助金」と「山主のポケットマネー」であると鋸谷さんは言います。林業では、儲からない。しかし、補助金と山主のポケットマネーでまかなってもらうというのです。
儲かるところは儲かるところでやっていけばよい。これは速水林業、古河林業などを指しています。こういったところも厳しいけど、それはおいておく。とにかく、日本の人工林の大部分を占める儲かることがほとんど不可能なところは、儲けることをまずあきらめます。
鋸谷さんは森林組合の立場からいっています。儲かんないけど、作業にお金を出してもらう。
どうやって。

蓄積経済という視点
 そもそも、こんなにも林業不況だというのに、多くの山主が山を手放さない理由の一つは「将来何かあったときのための蓄え」という考えがあるからです。林業というものはそもそも余剰の労働力・資金で賄われてきたものなのです。
現代的な言い方をすれば、山に投資してもらうのです。
「今山を放っておいたら、間違いなく将来の回収も0になります。今までの投資が無駄になりますよ。それに、資金運用という視点からみれば、山に投資しておくことは、銀行も破綻しうるという不安定な世の中で、貯蓄先の一つとしてそれほど悪くないといえないでしょうか?ですから、山主さんにとって今自分の山に投資すること、もっと具体的に言えば間伐することは、それほど悪い話ではないはずです。それに、将来材価が高騰する可能性だってあるんですよ・・ってまあ、話すんですねきっと。

信頼
でも、この話に山主がのるためには、森林組合に対して信頼が無ければなりません。実は、鋸谷さんが「3年間、毎年平均100万円ずつアップしてきた」ことを実現したのはこの点が大きいということです。なにせ、森林組合にいってまずしたことが、理事長に「顧客から電話があったら、どういう用件であろうと、丁寧に対応してください。とにかくそれを一年続けてください。」ということから始まったということですから・・
信頼を得るための取り組みとして、

1.まず森林組合が上の理事長のような姿勢を抜本的に変えないとダメでしょう。(まあ、森林組合といっても千差万別でしょうか)
2.次に作業の効率化。速水林業でも、徹底した作業の見直しをした結果、三分の一までに効率化されたと聞きます。鋸谷さんも、作業班の人を集めて何度もミーティングを重ねたり、20代の頃から伝統的に行われている作業について、改善できないか実験を繰り返してきました。(コラム参照)
3.鋸谷式間伐では、見た目に作業後はっきりわかるという利点もあります。従来の20%間伐では、事実上すでに枯れた木を伐る除伐に近いものであり(特に間伐が遅れた山では)、間伐してもしたのか、していないのかわかりづらかったのです。
4.そして、災害に負けない森林にすること。鋸谷式間伐は、そもそも71年の大豪雪の時のデータを参考にしています。鋸谷さんは、「200年に一度の災害でも負けない森林にしなければならない」とおっしゃっていました。これも、「蓄積経済」的な考え方です。というのは、資本主義的な利潤のみを追求するなら、そんな災害のためにコストを掛けないからです。しかし、災害を防止する機能を持った森林の「環境的側面」と、山主にとって「将来のための蓄積」を大切にするなら、そのリスクを避けるためにコストをかけること(具体的には一度に間伐し過ぎないこと)が妥当なのです。

といったお話を聞きました。話を聞いて、まだまだ森林組合には可能性があると思いました。

この「蓄積経済」という話は可能性があると思います。特に、日本は森林所有者が零細だといわれ、それが「資本主義経済」に置いては圧倒的に不利なわけです。しかし、この「蓄積経済」という考え方においては、零細なほど各山主が山に投資する金額が小さくなるので「ポケットマネー」から出やすくなり、むしろ間伐が進みやすくなるのです。

(コラム)
効率化の例
 ・下刈りは梅雨に行う
・そして草を地上30センチのところで切る。
 ・枝打ちは間伐とセットで
 ・枝打ちには鋸を使う
 ・間伐後の玉切り等は一切行わない
 ・雪起こしは苗の高さ2メートルになるまではしない。
 など。
また、植林の際のヒノキの裏表に関して、従来の「表を谷側に向ける」というのはまるっきり逆だとおっしゃっていました。確かに、自然のものや植えたものでも多くの苗の先は裏が谷のほうにあります。

これらがすべて正しいかどうかはわかりません。しかし、少なくとも鋸谷さんは10代の頃からの40年にもわたる実験をもとに主張していること、そしてそれでやっていけているところがあるのは事実なのです。
鋸谷式間伐の考えかたに対して、厳密に証明を求めたり、欠点を探すことは容易です。しかし、そういうことがあまり意味を成さないといいうことを今回感じました。現場にとって、理論どおりなら100いくところが90であってもいいのです。それで効果が挙げられるなら。
そして、厳密な理論を打ち立てたところで現場の人がそれを100%実践するわけがないのです。

鋸谷さんは自分の意見に絶対的な自信を持っており、少し違和感を覚えるところもありましたが、その存在が周囲に与える影響は計り知れないと思いました。なにせ、自分も多大な影響を受けてきたのですから・・・・

参考; http://tamarin.cside21.com/
     鋸谷式新間伐マニュアル 
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by taiji_nakao | 2006-04-10 08:18 | 山と木材のお話
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