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2009年 08月 01日
できそこないの男たち
福岡伸一の本。「生物と無生物のあいだ」は評判どおり面白く、ファンになる。「世界はわけてもわからない」と本書をまとめ買い。ちょっと懲りすぎじゃない?って思うほど、小説のような構成になってるけど、この「物語」がいい。

高校の生物の先生はとてもユニークな人で、授業はいつも自前のプリントを使っていた。そして、たくさんの「物語」を語っていた。生物学の物語は、2種類に分けられる。ひとつは、研究者たちの物語。「一番乗り」そして、「ノーベル賞」を目指した熱い、人間ドラマ。それから、生物たちの物語。やつらは、どんな戦略をとっているのか。擬人化されたストーリーは聞いていて面白いし、興味がわく。うちの学校の生物はいつも成績がよかった。

ちなみに、その先生は3年間担任の恩師で、大きな影響を受けた。だけど、大学に行ったら、生物学の勉強はほとんどしなかった。この本を読んでいたら、その授業を思い出した。

ボーヴォワールは、「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と言ったが、生物学的には、「人は男に生まれるのではない、男になるのだ」というのが正しい、と筆者はいう。もともと生物は、無性生殖で殖えていたのであり、それはつまりみんな女だったということだ。受精卵からの発生の過程をみると明らからしく、男女関係なく女仕様で始まるのだが、男は、途中から仕様変更されていくらしい。

ママの遺伝子を、誰か他の娘のところへ運ぶ「使い走り」。現在、すべての男が行っていることはこういうことなのである。


以前、「ハンディキャップ原理」という本を読んだことがある。
見事な孔雀の羽は、生きていくうえでは不便極まりない。外敵から目立ってしまうので、非常に危険であり、生存競争という視点でみて、不利な遺伝子を持っているように見える。しかしメスは、立派な羽を持つオスを選ぶ傾向がある。なぜか?

それは、見事な羽を持っているということは、「そのような羽を持っているにもかかわらず生き残ることができる能力を備えていること」になるからだという。ハンディキャップ原理で面白いのは、肉食動物側もそのことをわかっているので、よく目立つ相手を狙わない傾向があるということ。つまりは、

ハンディキャップを持った草食動物:
「目立っていても逃げる自信がからこういう格好をしているのです。だから、追ってきても時間と体力の無駄ですよ。」

見つけた肉食動物:
「そうだろうね。やめときます。」

というコミュニケーションをしているということだ。これは人間も使っていること(例えば、あごを前に出すしぐさ)で、面白い理論だ。

肉食動物はしかし、たまに上記のようなコミュニケーションをせずに、目立つオスを追いかけてくる。だから、目立つだけでなくて、「本当に逃げるだけの実力を持っていること」は生き残るためには必須だ。
さて、ここで、本書の視点でオスのハンディキャップを説明するとなかなか生々しいことになる。

メスは敢えて不利な性質をオスに与えることで、それでもなお生き残りうる遺伝子を選別している。

追記:20:30 一部修正
by taiji_nakao | 2009-08-01 10:13 | お勧めの本
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