人気ブログランキング | 話題のタグを見る
<< 生物多様性考(Ⅳ) 生物多様性考(Ⅱ) >>
2005年 02月 05日
生物多様性考(Ⅲ)
 3回目です。

いままで、

「1.意味不明な生物多様性議論」では、従来の生物多様性の重要性の説明が不十分であることを、

「2.人間の生活は生態系に依存している」では、普段は意識されることはないが、人間は生態系に依存していることを、

「3.生態系は奇跡」では、生態系は奇跡的に成立していることを、

「4.自分の問題としての生態系保全」では、生態系保全という問題は決して遠くの話ではないことを、

説明してきました。

これからは、生物多様性の意味の説明に入ります。

これ以降は、先に紹介した、「生物多様性の意味」 ダイヤモンド社 を参考にして書いたものです。この本には、豊富な事例が紹介されているので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

**

5.生態系には「質」がある

 生態系の機能

*水
*土壌
*植物の生産
*土地を形成
*気候・大気を形成
*生物間相互作用

*植物の生産力

一年の生産量
 同じ条件の土地でも、生物が多様な方が生産力が高いことがある。極端な例だが、トウモロコシを単一で育てるより、クローバーと一緒に育てる方が、50%収穫量が増えるという。多くの研究の事例から、10種程度までなら、植物の種数が増えるほど確実に生産力は伸びるといえる結果が出ている。但し、10種を超えると頭打ちになるという。

安定性
 生物を取り巻く環境は変化する。例えば、降水量は年々変わるし、火事や地震などで大きな変動があるかもしれない。また、気候の変動は過去何度も起きている。(何万年という月日をかけてだが)
それに伴って、植物の生存を限定する要素、光、気温、降水量、土壌・・などが変化する。すべての要素に強い種というのはなく、ある種は光の弱いところでも成長でき、ある種は降水量の大きなところで他より早く成長できるかもしれない。
ある土地においては、その土地の環境の中でも今現在の状態に強い種というのは確実に存在し、その種が多数を占めることになる。しかしながら、人間が手を加えない自然の状態なら一般に、その中でも多数ではないが生きている種というのが存在している。これが、つまり生物多様性の一つの意味である。
環境が変化したとき、それまで多数存在していた種は生存が困難になることが多い。それは、それ以前の環境における、限定する要素のうちのどれかに特に強かったわけで、その分ほかの限定する要素には弱いからである。そのとき、生物多様性が高ければ、それ以前は細々と生き残っていた種が今度は多数になるのである。しかし、生物多様性が低ければ、その環境に適応できる種はいないかもしれない。

 例えば、ミネソタのシーダー渓谷のプレーリーではやせた土地で草原が広がっている。ここに、肥料を与えると生産量は増加するが、植物の多様性は減少する。あるシーズンに、旱魃が起きたが、肥料を与えていない土地(生物は多様)に比べて、肥料を与えた土地ではそのシーズンの収穫は4分の1になり、元の生産量に戻るまでに4年を要した。
 
 植物の生産以外の機能、水、土壌、土地を形成、気候・大気を形成、生物間相互作用においてもほぼ、同様なことがいえる。すなわち、10種程度までは数の増加ともに機能が上昇するがそれ以降は頭打ちとなる。しかし、多様なほど環境が変化したときに対応して、その機能を発揮できる種が多く存在することになり、その生態系は安定する。と。

6.どういうスタンスで生態系に臨むべきか?

危機はすでに進行している
 いまさら挙げるまでもないが、乾燥地域での塩害、砂漠化、熱帯林の減少といった土地の劣化の問題は世界で進行していて、人間が存続することが難しい地域がすでに出ているし、今後さらに増加することは間違いない。

自然は放っておけば回復する?
 破壊の程度によるが、例えば皆伐をしてもすぐに陰性の樹木が生え、数十年で元の極相林に戻ることもある。しかし、一般的には皆伐をすれば土壌は失われ、その土壌を回復するための、教科書的な遷移をたどることになる。土壌流出の量や、環境にもよるが、今一般に砂漠化といわれている土地でも、「自然に回復」するのだが、それは数百年~千年のオーダーである。発展途上国で、アグロフォレストリーを普及する際に、10数年間木が育つまで収入が得られないのを待てずに単一栽培を転換できないことを考えれば、100年近くかかるのでは、いくら回復したとしても、「放っておけばよい」ということにはならないだろう。

どんな状態がいいのか?
ある地域では草原化が問題になり、ある地域では低木の進入が問題になる。ある地域ではゾウが減り、ある地域ではゾウが増えて困っている。確実にいえること。多様であることがいいということ。人間が手をつける前の状態は、今まで何万とか場合によっていは億といった単位の結果成立している以上、それだけの意味があると謙虚になるべきだろう。人間が生態系について知っていることはあまりにも少ない。これは、外来種問題を考えるときの基本原則だと思われる。

7.自己の保全のための生物多様性保全

*人間は生態系に依存して生きている 
*生態系には質があり、それは生物多様性によって表される
 
よって、

生物多様性保全 = 現在危機にさらされている、人間の生存基盤である生態系の健全化 
→ 現実的に必要

ポスト自然保護主義を越えて
 IUCN(国際自然保護連合)の第三回会議が昨年の11月に行われ、約16000種が現在絶滅の危機にあると勧告した。過去400~500年で絶滅した種は約800種といわれているので、恐ろしい数字である。
このままいけば、生態系が機能を果たせなくなってしまい、人間が存続できなくなる日が来るのはほぼ確実といえるだろう。
こうした現状を考えると、やはり、現場で第一産業等にかかわる人間も、「結果的に自然が保護されればよい」といわずに、生物多様性保全を活動の第一理念のひとつに加えて、具体的な行動をとることが求められている。

**

これで、勉強会に使った資料は全部出ました。

しかし、この説明にも、実は限界があります。

したがって、話はまだ続いていきます。
by taiji_nakao | 2005-02-05 01:44 | 考え事
<< 生物多様性考(Ⅳ) 生物多様性考(Ⅱ) >>